京都地方裁判所 昭和53年(わ)379号 判決
本店の所在地
京都市南区上鳥羽鉾立町四番地
法人の名称
厳本金属株式会社
代表者の住居
京都市南区西九条西蔵王町三〇番地
代表者の氏名
厳本光守こと 李光守
本籍
韓国慶尚北道義城郡丹北面魯渕洞七三〇
住居
京都市南区西九条西蔵王町三〇番地
会社役員
厳本光守こと 李光守
大正一五年一二月一〇日生
右の者に対する法人税法違反被告事件について、当裁判所はつぎのとおり判決する。
検察官 中村雄次出席
主文
被告人李光守を懲役一〇月に、同厳本金属株式会社を罰金一、〇〇〇万円にそれぞれ処する。
被告人李光守に対しこの裁判確定の日から二年間その刑(懲役刑)の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人厳本金属株式会社は、京都市南区上鳥羽鉾立町四番地に本店を置き、他に八幡工場及び栗東工場を増設し、くず鉄等の製鋼原料の加工販売業を営むもの、被告人厳本光守こと李光守は、右会社の代表取締役としてその業務全般を統轄しているものであるが、被告人厳本光守こと李光守は被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、昭和四九年七月一日から同五〇年六月三〇日までの事業年度における同会社の所得金額は八、二九二万八、二七六円で、これに対する法人税額は三、二〇二万二、一〇〇円であったにもかかわらず、公表経理上売上の一部を除外するなどして所得を秘匿した上、同年九月一日同市下京区間之町五条下る大津町八番地所在の下京税務署において、同税務署長に対し、所得金額は九二八万二、七五七円の欠損で納付すべき法人税額がない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、右事業年度の法人税額三、二〇二万二、一〇〇円を免れたものである。(ほ税所得の金額は、別紙1修正損益計算書のとおりであり、ほ税所得の内容は、別紙2のとおりであり、ほ脱税額の計算は別紙3のとおりである。)
(証拠の標目)
一、登記官作成の法人登記簿謄本
一、大蔵事務官作成の各査察官調査書(検第三ないし第七、第二二ないし第三〇、第三九、第八四、第八五)
一、長尾克己、姜貴妊、松尾正寛各作成の確認書と題する書面(検第八ないし第一〇、第三一、第三三)
一、田中文雄、大西秀夫、飯田肇の大蔵事務官に対する各供述調書
一、田中文雄、大西秀夫、飯田肇、長尾克己、姜貴妊、高山忠司、佐野秀雄、郭鐘三の検察官に対する各供述調書
一、大蔵事務官作成の証明書と題する書面(検第三八号)
一、大蔵事務官作成の脱税額計算書と題する書面(検第四一号)
一、証人曽根賢二、同松村実、同長尾克己、同古谷弥太郎、同崔健二、同姜貴妊、同姜鐘基の当公判廷における各供述
一、被告人の大蔵事務官並びに検察官に対する各供述調書
一、被告人の当公判廷における供述
一、領収証(昭和五二年度)三四通、同じく昭和五三年度三五通(弁一、二号)
一、古谷弥太郎作成の一覧表二通(弁三、四号)
一、昭和四九年一二月より同五〇年一〇月までのダライ粉売上及び仕入数量表(松村実作成、弁五号)
一、押収してある総勘定元帳一綴(昭和五三年押第二八〇号の一)、支払控ノート七冊(同号の二)、四九年分仕切書四綴(同号の三)、仕入伝票綴一箱(同号の四)、領収書綴一箱(同号の五)、現金出納簿五冊(同号の六ないし一〇)、銀行勘定二冊(同号の一一及び一二)、仕入帳二冊(同号の一三及び一四)、領収書一五綴(同号の一五)、厳本金属KK八幡工場総勘定元帳一綴(同号の一六)、同KK栗東工場総勘定元帳一綴(同号の一七)、金銭出納帳一綴(同号の一八)、厳本金属KK決算関係書類一綴(同号の一九)、不動産売買契約書一綴(同号の二〇)、昭和五〇年六月決算関係メモ三綴(同号の二一)、手帳一冊(同号の二二)
(法令の適用)
被告人李光守の判示所為は法人税法一五九条一項に、同厳本金属株式会社の判示所為は同法一六四条一項、一五九条一項に各該当するが、被告人李光守については所定刑中懲役刑のみの刑を選択し、その所定刑期の範囲内で同被告人を懲役一〇月に処し、本件において被告人厳本金属株式会社が免れた法人税の額は判示のように五〇〇万円をこえているので、同会社に対する罰金刑については情状により同法一五九条二項を適用して、その金額の範囲内で同会社を罰金一、〇〇〇万円に処し、被告人李光守に対し、なお情状により刑法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から二年間その刑(懲役刑)の執行を猶予し、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条により被告人両名に連帯して負担させることとする。
(争点に対する当裁判所の判断)
一、いわゆる圧縮について
前掲各証拠、とくに押収にかかる手帳(昭和五三年押第二八〇号の二二)の記載並びに証人曽根賢二の当公判廷における供述によれば、ミツナ鋼建株式会社(以下単にミツナという。)が被告人会社に売却しようとする土地の売買価格は坪五九万円であり、被告人会社が本件交換的な売買によりミツナに支払うべき売買代金の差額が三億四、九六九万二、五〇〇円であったところ、ミツナの土地の価格につき坪単価を一〇万円圧縮したため、前示差額のうち圧縮分に相当する七、八七五万五、〇〇〇円を裏金で支払うこととし、残りの二億七、〇九一万七、五〇〇円を表で支払うことに決めたこと(もっとも右裏金のうち一、一七四万円を被告人会社がいわゆる取分としてまけてもらっている事実はある。)そこで右差額のうちの表金額二億七、〇九一万七、五〇〇円を支払うにつき税理士もまじえて相談した結果、税金或は融資先、又は国土法の関係等を考慮し、契約書上の価格はミツナの土地を坪四七万円、被告会社の土地を坪二〇万七、一四二円とすればちょうどその差額が右差額の表金額と同じになって都合がよいということで被告人会社の土地の値段を坪二〇万七、一四二円にしたことが認められる。
ところで弁護人らは、右二〇万七、一四二円は時価であって何ら圧縮はないというが、なるほど仮にミツナの土地の坪単価が真実四七万円であるとすれば、そのようにいえるであろうけれども、前示のようにミツナの土地の売買価格は坪五九万円であって四九万円でも四七万円でもないことは動かし難い事実である以上、その支払うことになった差額(表及び裏を含む)からみて被告人会社の土地の売買価格が坪二〇万七、一四二円ではありえず、坪二四万円であったといわざるを得ない。弁護人の主張は表金額で支払うことになった差額分にいわば合わせて便宜的に定めた値段をもって真実の売買価格であると主張することに帰着しとうてい採りえない。
以上のように被告人会社の土地の売買価格は坪二四万円であったとみるのが相当である(もっとも本件はいわゆる交換的売買の場合であるから犯情の面で考慮すべき余地はあるといえよう。)から契約書上の坪二〇万七、一四二円なる金額は検察官の主張するように真実の取引価格坪二四万円を圧縮したものと認める。
なお、被告人会社が本件土地を昭和四八年五月ごろ坪二三万円で他から購入した事実も右を裏付けるものというべきである。
二、簿外仕入について
前掲各証拠によればつぎの事実が認められる。
〈1〉 昭和四九年一二月より同五〇年六月まで(弁護人が簿外仕入をしていたと主張する期間)のダライ粉の売上及び仕入の計算
売上3,206.110トン-仕入2,925.810トン=280.300トン――〈イ〉
すなわち仕入不足が二八〇・三〇〇トンということになり、右仕入不足の分は一応簿外で仕入れているのではないかと考えられる。
〈2〉 昭和五〇年一一月より同五一年六月まで(いわゆるガラス張りの期間)のダライ粉の売上及び仕入の計算
仕入4,527トン-売上4,074トン=453トン
右は八か月分であるから七か月分に直すと4.53×7/8=396.375トン――〈ロ〉
すなわち仕入が三九六・三七五トン過大ということになるが、右過大の分は鉄くずに混入したダライ粉の量と考えられる。
従って〈イ〉+〈ロ〉=六七六・六七五トンは、特段の事由がなき限り、〈1〉〈2〉の期間の仕入、売上がほぼ同量であることを考えれば、〈1〉の期間内に簿外仕入をしたであろうダライ粉の量とみるのが相当である。
また簿外仕入の価格は二万円(ダライ粉トン当りの単価)×六七六・六七五トン=一三五三万三、五〇〇円となる。
右に対し仕入、売上に関し、全商品による比較をすべしとの検察官の主張はもっともであり、これを試みると〈1〉の期間では三八・八一一トンが、〈2〉の期間では一八・六七〇トンがそれぞれ仕入過大となっており、とうてい弁護人がいうような簿外仕入を容れる余地なきが如くであるが、鉄くず等の売買ではいわゆるロス(スケールと称する。)がつきものであり(国税査察官松村実さえ1ないし2%のロスがあることを認めるかのようである。)、そうとすれば〈1〉の期間につき少く見積っても四九六トンないし九九二トンの〈2〉期間につき五二五トンないし一〇五〇トンのロスがそれぞれ見込まれ、この分が仕入にプラスされて然るべきということになる。検察官は右ロスの分は計算の際のいわゆる出目と差引零になると主張するようであるが、本件証拠上計算の際右のような出目があるものとは認め難い。右事実はとりも直さず、ロスの分がダライ粉の簿外仕入に該たる旨の被告人らの捜査段階以来の主張を裏付けているということができる。
検察官は長尾克己や被告人李光守の簿外仕入に関する供述は、これを主張した時期が遅いこと、また数量が明確でないこと等を理由に信憑性がない旨主張するも、簿外仕入なるものは、もともと脱税の発覚をまぬがれるために行うという面があって堂々と主張でき難い一面があること、数量についてははっきりした資料を残していなかったためただちに明確にし難いものがあったであろうこと、長尾は一使用人であったこと等を考えれば、長尾及び被告人の供述するところは一概に排斥できず(なお、被告人李光守については捜査段階から一貫して簿外仕入を主張し続けているともいいうる。)また簿外仕入に関する従業員らの各供述は、簿外仕入があったとする事実に添うもの、また添わぬもの様々であるが、簿外仕入があったという事実に反するかのような小泉美智子、李紅美の証言も長年月を経た後のものであること及びその証言している内容などを考えると結局いずれも決定的なものとはなし難いといわざるを得ない。
さらに簿外仕入の必要性に関する検察官の主張は誠にもっともな点が多いけれども、簿外仕入をしても差益についてのみではあるがなおほ脱が可能であること及びほ脱の発覚をまぬがれる(いわゆる頭隠して尻隠さずを避ける)というメリットも否定しえず、単に売上除外をやめるだけでよいとはただちにいえないと解される。
ところで弁護人が簿外仕入の一部として主張するスケール中のダライ粉三五・八五〇トンであるが、右がいかなる意味で簿外仕入に該当し得るのか理解し難いのみならず、ダライ粉中のスケールの割合についても他の商品にくらべ立証が不十分であると思われるので、右部分については認容しない。
三、接待飲食費について
結論として弁護人の主張する金額を認容する。
その理由は、まず、判示の程度の企業活動をしている被告会社にとって、接待飲食費が年間一七万一、〇七〇円(一一万一、〇七〇円プラス六万円)というのはいかにも少額に過ぎることは検察官も一応認めるところであるが、右に弁護人提出の前掲各証拠によって認められる昭和五二年七月から同五三年六月までの飲食に費した費用を比較対照することにより、弁護人が主張する租税特別措置法の限度内の接待飲食費を認容するのが相当と思料されることにある。
検察官は、簿外仕入を主張するほどの被告人李光守が「接待飲食費は少いほどよいと誤解」するはずはないというが、右期間について飲食についての領収書等が全く保存されていないように見受けられること、国税査察官の質問を受け、同被告人が「私は知っていることは正直に言うつもりですが、会社の帳簿にのせていない交際費は、各年度とも多い目に見て六万円位であり、これ以外には絶対にありません。」(検第七九号問一七)との供述のしかたも、「少ないほどよいと思っていた。」という同被告人の心中をうかがわせるものがあるとみれないわけでもないことを考慮すれば、前示認定の障害になるほどのことではないと解する。
計算
法定限度額四、〇〇三、〇〇〇円(四〇〇万に資本金三〇〇万の千分の一を加えたもの)より公表金額三、五五四、八八一円と国税局が簿外と認容した六万円を合計した金額を差引いた三八八、一一九円が認容すべき金額になる。
よって主文のとおり判決する。
(裁判官 河上元康)
別紙1
修正損益計算書
自昭和49年7月1日
至昭和50年6月30日
〈省略〉
〈省略〉
〈省略〉
別紙2 ほ税の内容
(自昭和49年7月1日 至昭和50年6月30日)
〈省略〉
〈省略〉
〈省略〉
別紙3
税額の計算
実際課税所得(犯則所得)
(82,928,000円(千円未満切捨)-7,000,000円)×0.4+(7,000,000円×0.28)=32,331,200円
控除所得税額 法人税額(ほ税額)
32,231,200円-309,012円=32,022,100円(百円未満切捨)